スラッシュ水素、スラッシュ窒素製造

スラッシュ水素、スラッシュ窒素大量製造技術の開発

技術情報1

 スラッシュ水素の主な製造方法には、スプレー法、フリーズ・ソー法、オーガ法があります [6, 13, 14]。

 スプレー法では、下の写真に示すように液体水素をノズルで断熱膨張させ固体粒子を製造するが、膨張時に多量の液体水素を蒸発によりロスすること、製造した固体粒子を液体水素と混合する際、固体粒子の大部分が融解して液体となることからスラッシュ水素、スラッシュ窒素を効率的に大量製造することができず、小規模製造においても実用性は全くない。

 スプレー法の応用として、高圧極低温ヘリウムのエジェクタ効果を利用して液体窒素をノズルで断熱膨張させ、固体窒素粒子もしくはスラッシュ窒素を製造するエジェクタ法が提案され、製造実験のみが一部行われている。エジェクタ効果は減圧法として古くから良く知られており目新しいものでは無いが、その効率は悪い。寒冷発生(固体粒子製造)の機構においても、オーガ法(下記)では効率が格段に良い等エントロピ膨張(タービンでのガスの断熱膨張)を使用しているが、エジェクタ法では効率の悪い等エンタルピ膨張(ノズルでの断熱膨張、スプレー法と同じ)を使用している。スプレー法と同様、固体窒素粒子もしくはスラッシュ窒素の製造法として効率が悪く実用性は全く無い。また、エジェクタ法で製造したスラッシュ窒素の配管内流動・伝熱特性など実用面での実験および流動・伝熱の現象解明は全く実施されておらず、スラッシュ流体の大きな利点の一つである配管内流動時の圧力損失低減が実験にて確認されていない(圧力損失低減と伝熱劣化が同時に発生する「レイノルズのアナロジー」については円管内流動・伝熱、PIVのページを参照)。製造した固体窒素粒子がフリーズ・ソー法(粒子径 1.36 mm程度、下図)と異なり微細な粒子であるため同一固相率で粒子数が大きく増加する。その結果、固体粒子同士、固体粒子と管壁の衝突増加、固体粒子と液体間の抗力増加等によりスラッシュ窒素の運動量損失が顕著となり、液体窒素よりも逆に圧力損失が増大する(圧力損失低減が発生しない)可能性が高い。
 さらに次のような欠点がある。① 高圧極低温ヘリウム(もしくは液体ヘリウム、温度 4.2 K)を冷媒として大量に使用するため、固体窒素粒子もしくはスラッシュ窒素の製造コストが高い。② 製造に使用したヘリウムから窒素を分離して回収するのが困難であり、稀少なヘリウム資源を保護する観点からエジェクタ法は全くの論外である。③ 製造したスラッシュ窒素中にヘリウムが溶解するため、スラッシュ窒素の僅かな温度上昇によりヘリウムが気泡となって発生し、冷媒としての伝熱性能低下から超伝導のクエンチ、熱暴走が発生する。
 ①、②の理由から固体窒素粒子、固体水素粒子もしくはスラッシュ窒素、スラッシュ水素の製造にはエジェクタ法は採用されない。また、③は超伝導送電等の超伝導機器には致命的な欠点であり、エジェクタ法で製造したスラッシュ窒素、スラッシュ水素は超伝導機器の冷媒として使用されない。

 フリーズ・ソー法は実験室レベルでの小規模製造、もしくは中規模製造に適しており、スラッシュ水素を簡便に製造できる。大気圧沸点下の液体水素を真空ポンプで減圧すると、液体水素が沸騰、蒸発し、潜熱を奪うことから液体水素の温度が低下する。三重点に達すると液体水素の液面に固体水素膜が生成し始める。この時、真空引きを停止すると液面上の固体水素の一部が融け液体水素中に沈降するので、攪拌器を用いて固体水素を細かい粒状(数 mm程度)にする。この真空引きと停止を繰り返してスラッシュ水素を製造する。因みに、減圧時に排気した水素ガスは回収して再利用が可能である。
 実験室では、フリーズ・ソー法を使用してスラッシュ水素、スラッシュ窒素の製造および流動・伝熱実験を行っている。スラッシュ窒素の平均固体粒子径は、下図に示すように 1.36 mmであった。

 オーガ法では、上図に示すように熱交換器を介して液体水素をより低温のヘリウムガスと熱交換させ伝熱面に生成した固体水素を回転する刃物(オーガ)で削り落とし、細粒状の固体水素を製造する方法です。熱交換器とオーガは液体水素中に設置しているので、製造と同時に固体水素粒子と液体水素を混合できる。液体水素と極低温ヘリウムを連続的に供給すれば、スラッシュ水素を連続的に製造でき、大量製造に適した方法です。オーガと伝熱面の隙間を調節する、もしくはオーガ回転数を調節することにより固体水素粒子径を制御できます。

 ヘリウムブレイトンサイクルを用いた水素液化機とオーガ法を組み合わせて、スラッシュ水素を大量、連続的に製造する場合を高効率水素エネルギーシステム図で既に示しました。

 スラッシュ水素の小規模製造実験に使用した熱交換器とオーガの断面図を上図に、製造時の可視化写真を下の写真に示す。極低温ヘリウムは熱交換器上部から入り、底部で上方へ向きを変えて銅製の伝熱フィンと熱交換する。伝熱面の反対側で生成された固体水素の薄膜は回転するオーガで削り落とされ、固体粒子が製造される。オーガ法によるスラッシュ水素製造だけでなく、スラッシュ水素の密度(固相率)を静電容量型密度計で計測し、スラッシュ水素の単位時間当たりの製造量を測定しました。

 可視化実験ではオーガ回転数が速いほど固体水素の製造量が多く、製造される固体水素の粒子径は小さくなることが観察された。下図に示すようにオーガ回転数 80 rpmにおいて、最大固体製造量は 0.062 g/s、50 wt.%のスラッシュ水素に換算して 5.5 l/hの製造量を得ました。固体水素製造量を推定できるように、オーガ回転数と時間増加に伴う固体水素厚さを考慮した伝熱計算モデルを構築した。下図に示す計算結果からもオーガ回転数の増加により固体水素製造量が増加することが示されている。熱交換器でのヘリウム熱伝達率は 1200 W/m2-Kと算出されたが、伝熱フィンと外筒のクリアランス(0.3 mm)からヘリウムが漏洩するため約 700 W/m2-Kに低下している。小規模製造実験ですが、大規模製造に向けた技術を取得しました。

 オーガ法を高効率な大量製造法として実用化するには、熱交換器/オーガの性能向上、極低温下で回転するオーガの長期信頼性向上などが今後必要となりますが、小規模実験で得られた成果を基に実用化が十分可能です。

スプレー法、フリーズ・ソー法、オーガ法によるスラッシュ水素、スラッシュ窒素製造

技術情報2
スプレー法、エジェクタ法ではスラッシュ水素、スラッシュ窒素を効率的に製造できず、実用性は全くない。