収縮・拡大管内流動、圧力損失低減、PIV流速測定

収縮・拡大管の圧力損失低減と固体窒素粒子の流動挙動

技術情報1


 Sindtらはスラッシュ水素が極低温バルブを流動する際の圧力損失を測定しており、部分開のバルブを流動する際、スラッシュ水素の圧力損失が液体水素よりも低減する結果を報告している [32]。直管の場合とは異なり、固相率が大きくなるほど圧力損失の低減量が大きくなり、固相率35-45 wt.%において最大23% の低減量を得ている。部分開のバルブは、構造的に収縮・拡大管の一種と考えられるが、圧力損失低減時のスラッシュ水素の流動構造、低減メカニズムは報告されていない。
 世界で初めて収縮・拡大管を流動するスラッシュ流体の圧力損失低減を実証し、低減メカニズムを解明したので以下に述べる。

 熱流束 0 kW/m2において内径 15 mm、スロート径 10 mm をもつ短いくびれ状の石英ガラス製収縮・拡大管(スロート部長さ 約12 mm)を流動するスラッシュ窒素と液体窒素の圧力損失を測定した結果を上図に示す [28]。図の実線は液体窒素の最小自乗近似曲線であり,流速 3.4 m/s 以上の実線は近似曲線を外挿した曲線を示す。圧力損失は収縮・拡大管と平滑円管の合計区間 295 mmを測定した。また、プラントル‐カルマン式で計算した内径 15 mm の平滑円管の圧力損失を示す。

 流速と圧力損失比(同一流速におけるスラッシュ窒素と液体窒素の圧力損失比)の関係を下図に示す [28]。流速 1.5 m/s以上で圧力損失が顕著に現れ始め、流速の増加と共に低減量は増加し、液体窒素と比較すると最大 50% 低減する。図中の(a)、(b)、(c)、(d)、(e) はPIV法*による実験点を示す。
 同一流速において固相率による圧力損失比の違いをみると、高固相率の場合(20-30 wt.%)は、中程度の固相率(10-20 wt.%)と比較して圧力損失比は全般に大きく(低減量は小さく)なっている。高固相率では液体と固体粒子、固体粒子間、固体粒子と管壁の干渉が大きくなり、運動エネルギー損失も大きくなるので低減効果が小さくなることが原因である。また、低固相率の場合(0-10 wt.%)も、圧力損失比は全般に大きく(低減量は小さく)、高固相率と同程度になっている実験値が多く、固相率が極端に小さくなると低減効果が小さくなるためである。即ち、中程度の固相率で圧力損失比は全般に小さく(低減量は大きく)なっている。

 PIV法*により管中心部鉛直断面上で測定したスロート部を通過する固体粒子の流跡線とスラッシュ窒素の圧力損失を下図に示す [28]。各点は (a) 低流速、低固相率、(b) 低流速、高固相率、(c) 中流速、低固相率、(d) 中流速、高固相率、(e) 高流速、高固相率の場合である。

 同一流速において圧力損失比 r を比較すると,低流速時の (a)、(b) 点と中流速時の (c)、(d) 点の両方から判るように、低固相率の場合、高固相率よりも圧力損失比は小さく(低減量は大きく)なっており、前述のように液体と固体粒子、固体粒子間、固体粒子と管壁の干渉が小さくなることが原因である。
 同一固相率において圧力損失比を比較すると、低固相率時の (a)、(c) 点と高固相率時の (b)、(d)、(e) 点の両方から判るように、高流速の方が低流速よりも圧力損失比が小さく(低減量が大きく)なっている。また、スロート部直ぐ下流底部において液体の剥離による渦(再循環)が発生しており、 (a)、(b)、(c) 点から判るように、固体粒子がスロート部直ぐ下流で液体に巻き込まれて形成する渦の大きさは、高流速,高固相率になるに従い小さくなっている。従って、液体の剥離によって生ずる渦の大きさも小さくなっている(図中に示す三次元流動・伝熱数値解析プログラムSLUSH-3Dによる数値解析結果 [36]参照)。(d)、(e) 点の高固相率の場合は中流速、高流速において固体粒子が形成する渦の存在が認められない。また、(a)、(b) 点と (c)、(d) 点のほぼ同一流速においては、固相率が増加しているにも拘わらず圧力損失(絶対量)の増加が少ない結果が得られている。即ち、固体粒子が液体の流動を制御する作用が働き、固相率増加に起因する圧力損失増加分を固体粒子が低減している。
 平滑円管において、高流速時にスラッシュ窒素の固体粒子が管中央部に移動することにより、管壁付近に固体粒子の少ない液体層が存在し、管中央部の固体粒子群が管壁での乱流の発達と管中央部への乱流拡散を抑制する(”円管内流動・伝熱”のページ参照)。収縮・拡大管においては、上流で管中央部に移動した固体粒子群がスロート部で液体の剥離を抑制している。さらに、液体よりも慣性力が大きく、管中央部を流れる固体粒子群がスロート部で管壁に衝突せず、スロート部で発生する渦にも巻き込まれることなく通過する。運動エネルギー損失が少ない状態でスロート部を通過した固体粒子群はスロート部下流で液体と運動量交換を行う。その結果、下流で液体の圧力回復が増加することが圧力損失低減の要因である。直管を流動する固液二相流体の場合、液体から固体粒子に運動量移送が行われ圧力損失が発生するが、本実験での収縮・拡大管の場合、通常とは逆の運動量移送が行われている。

 固体粒子と液体の運動量交換を確認するため、(a)、(b)、(e) 点のPIV結果から得られた固体粒子の流速分布を下図に示す。スロート部直ぐ下流の円管部を領域 A(区間長さ 0-14 mm)、さらに下流の円管部を領域 B(区間長さ 14-28 mm)として、各々の領域での上流、中流、下流の流速分布を示している。
 (a) 点の領域 Aでは、管中心部での流速は中流の方が上流、下流よりも大きくなっている。この原因は流跡線の図 (a)に示すように液体が形成する渦により中流部の流路が狭くなっているためである。領域 Bでは、上流から中流、下流に流れるに従って固体粒子の流速分布は平坦となり、平均流速も小さくなって液体との運動量交換が見られる。
 (b) 点の領域 Aでは、流跡線の図 (b)に示す渦の存在により管中心部での流速は中流の方が上流、下流よりもやや大きくなっている。下流の流速分布はやや平坦となっている。領域 Bでは、上流、中流、下流の速度分布はほぼ同じ分布になっている。流速が小さく、固相率が大きいので固体粒子と液体の運動量交換が領域 Aの下流部から時間をかけて(流速が遅いため)促進され、領域 Bでは運動量交換がほぼ終わっている。
 (e) 点の領域 Aでは、管中心部での流速は上流が最大となっており、上流から中流、下流に流れるに従って平坦な分布となっている。上流で流速が最大となるのは、液体の剥離領域が少ないためと、慣性力の大きい固体粒子が液体との干渉なしに剥離領域を通過するためである。領域 Bでは上流から中流、下流に流れるに従って、流速分布は平坦となり平均流速が小さくなるのが明確に現れており、固体粒子と液体の運動量交換が見られる。従って、前述のように固体粒子との運動量交換により液体の圧力回復が増加することが圧力損失低減の要因である。

 本実験のスラッシュ窒素の圧力損失低減量(40-50%)が Sindtら [32] のスラッシュ水素の低減量(23%)よりも大きくなった理由として、収縮・拡大管の方がバルブよりも構造が簡単であるので固体粒子と液体の運動量交換が容易に行われるためである。

 * PIV法:粒子画像流速測定法 (Particle Image Velocimetry) を使用して、固体粒子の流速、流跡線を直接測定した。